ヴァイオリンバカが、かけっこバカになり、コーヒーバカになった話 その2。



ヴァイオリンバカが、かけっこバカになり、コーヒーバカになった話 その1

 

何もない自分がコーヒーなら興味がある!興味のあることをトコトン学ぶのは得意だ。

 

と、考えたワケですが、私の興味のあることは「おいしくコーヒーを淹れること」ではなく、「コーヒー豆」でした。

豆によって味が全然違う。

それが新しいコーヒー豆を買ったとき一番楽しみでした。

「これはどんな味がするんだろう」と。

 

だからバリスタとかには興味がなかったんですね。

それよりももっと根源に近づきたい。コーヒー豆に近づきたい。

 

でも、どんな職業があるんだろう?

ということで、いつも一人で飲みに行くバーのマスターに相談に行きました。

 

ここはお酒があまりに無知だった私にウイスキーやワインを沢山教えていただいた場所で

コーヒーも扱っており、粋なエスプレッソの飲み方も教えていただきました。

 

 

コーヒー豆を扱う仕事をしたいんです。

 

そう伝えると

「ちょうどウチで扱ってるコーヒーのロースターが跡継ぎを探していたぞ。

お前が本気なら行くか?」

 

「行きます」

 

即答でした。

 

 

その足でロースターの元へ連れていってもらいました。

 

 

 

建物は倉庫とも思える小さな工場。

 

私の背を越える大きな機関車の顔のような機械と

その横に、ちょっと小振りな同じような機械。

これが焙煎機。

 

そしてそこにいた焙煎士、ロースターはとても背の高い人でした。

年齢は私の父の少し下くらいでしょうか。

 

目力が強く、オドオドしていた私は気圧されます。

 

「こいつが焙煎を習いたいということなんです。」

 

挨拶を簡単にすると

 

「まず君が勉強している本を持ってくるのと、

朝4時にまた来て」

 

 

4時!!

 

 

ちょっと驚きはしたものの、早起きは得意だったし

それよりも私は切羽詰まり藁をもすがる想いだったのて

 

「4時に伺います」

 

と答えました。

 

 

ちょうど8年前の今頃でした。

 

彼の淹れてくれたコーヒーを飲み、

今まで飲んだどのコーヒーよりも美味しいことに驚き

 

弟子入りに何一つとして迷いはありませんでした。

 

後継ぎというワケではなく、ひとまず独立開業を目指すという方向でスタートしました。

 

 

仕事が休みの日は研修に通い、

習ったことをひたすらノートに書く。

師匠の言った言葉を一言一句間違えずに。

何一つ取りこぼしがないように。

 

 

3ヶ月とせずに研修は終わりました。

 

 

師匠が言うには飲み込みが早いことと、筋が良いということです。

 

この研修は、●十万という金額がかかっていました。

 

決して安くはないし、身銭を切ることで必死になる。

 

それと、師匠と感性的なものが近かったこともあったのでしょう。

 

今後は助手を務めながら経験を積み、開業できる物件を探していくということで

 

焙煎のある日は朝3時に工場へ行き、焙煎をし

6時に帰宅し、記録や学んだことをノートに記録して

本業の仕事へ行くという生活を約2年続けました。

 

 

不思議なもので、自分の好きなことだから

本業の仕事をしていても全く疲れない。

 

しかしそんな生活だったのと、独立の資金を貯めるために

殆ど遊ばなくなりました。

 

 

それでも、楽しくて仕方ない。

 

 

本業はいつ辞めるとも分からないので、人事にはその旨を伝え、

異動はなしにして貰いました。

 

できるだけ誰にも迷惑を掛けないように。

 

 

 

そしてある日師匠から

 

「実は長い時間ローストができなくなっている。

このままだと潰すか君に任せるかの二択になる。

 

 

継いでくれないか」

 

 

 

会社として法人登記。

ひとり会社としてスタート。

そうして今に到ります。

 

 

 

後継者としてスタートして、今までまた色々ありえないエピソードが山ほどありますが

それはまた別の機会に書きます。

 

 

 

何かのチャンスをひとつ掴むと

 

バラバラだった幾つかの歯車が全て噛み合い

 

抗うこともできないとんでもないスピードで

突き動かされることになる。

 

 

もう、元の地点になんか絶対戻れないくらい

遠くへ運ばれます。

 

 

 

「オーケストラのコンサートマスターになるんだ!」

 

 

その夢とは遥か遠い場所に今私はいますが

 

コンサートマスターは指揮者の意図を汲み、それをメンバーに伝える。

 

周りの音を聴き、的確に先を組み立てていく。

 

 

コーヒー豆のルーツや背景、詳細を汲み、味を組み立てる。

 

コーヒー豆のはぜる音を微細なものまで聴き分け

煎り止めというゴールまでの道を作る。

 

結果的に望んだ姿に近づけた

 

のかもしれません。

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